短編 | ナノ


▼ 五伏





「ここ監視カメラあるんじゃないですか」
「ありそうなところは全部破壊した。盗聴器らしいものも全部な。」
「流石伏見さんです」
「でもどうせまた付けられるだろ。時間の問題だ」

伏見さんの部屋は殺風景だ。必要最低限のもの以外ない。僕の部屋は日高がいるからどこもかしこもガチャガチャしててそれでいてうるさい。伏見さんは静かだし部屋も静かだから対照的だ。まあ僕にこだわりはないから特にどうでもいい。

沈黙が続く。部屋には僕がスナック菓子を食べる音だけが響いている。タンマツをいじる指を止めて、頂戴、と手が伸びてくる。どうぞ、とわざと粉々に割れたモノを渡せば、死ねと殺意のこもった視線が飛んできた。

そういえば、と、唐突に思い出したことを伏見さんに言ってみた。


「秋山さんが伏見さんのこと好きだって言ってましたよ」
「知ってる。態度でわかるだろ」
「でも伏見さんは僕のことが好きなんですよね」
「……自惚れんな。」
「もう、素直じゃないなあ」

ギュッと抱き寄せてその艶のない髪を大事に撫でる。伏見さんの髪からは俺と同じ匂いがして、顔を肩に埋めるとくすぐってぇよ、と言いながら舌打ちされた。でも抵抗してこないのだから満更でもないのだろう。

「伏見さん、好きです。可愛い、食べたい、僕だけのものにしたい」
「…俺もお前のそういうとこ嫌いじゃない」

顔を上げて伏見さんと目を合わせる。深い瑠璃色の瞳に僕が映っている。僕しか映っていない。今は、僕だけの伏見さん。

「でもね伏見さん、僕不思議と伏見さんをどこかに閉じ込めたいとか監禁しておきたいとかそういう感情はないんですよ」
「意外だな」
「だって閉じ込めておいたらあなたの見られる表情が減るでしょう?僕だけしか見えていないっていうのもすごく魅力的だけど貴方が室長に屈する顔も好きだし八田美咲と楽しそうに遊んでる顔も好きだし普段の何もかも楽しくなさそうな顔も全部含めて好きなんです。願わくば今まで見たことがない貴方が爆笑する顔とか絶望する顔とかも見てみたいんですよ」

にこりと笑うと、キモい、と吐き捨てるように言った。そうだろうか。そんなの人間なら好きな人に対して思う普通のことではないのか。

「でも、1番欲しい顔は俺のことが好きでたまらないって顔です」
「…こんなに近くにいるだけじゃダメなのか」
「いいですよ、別にいらないです。あなたと違って欲張りじゃないんです」

俺がいつ欲張った?と眉間に皺をよせる伏見さん。自分で分からないうちはまだまだだ。誤魔化すように伏見さんの唇にキスを落とす。それを素直に目を閉じて受け入れ、俺のシャツに手を入れて身体をまさぐってくる。発情期なのかな。
擦り寄ってきながらそのまま押し倒され、シャツを捲ってぺろぺろと舐め始める。今日は積極的だなあ、とか思いながら伏見さんのシャツのボタンを外していく。

「なあ、俺さ、お前のこと好きだよ。」

これだけじゃ、ダメなのか。そう言う伏見さんの顔は真剣なのだけど。

「ダメです」
「…何が」
「それは、逃げですよ。俺を1番好きだと思い込んで自分の感情を潰そうとしてる」
「そんなことな、」
「そんな気持ち向けられたって嬉しくないです」

そう言えば一瞬ムッとした表情をしたのだが、俺の顔を見て表情が怯んだ。きっと情けない哀しい顔をしているんだと思う。僕はこの人より年上なのに、この人の前ではどうしてもボロが出てしまうようだ。いつもの調子を見失ってしまう。
そういう気持ちにさせてくれるところも、すごく好きだ。

「…ごめん」
「謝らないで下さいよぉ。余計哀れです」

身体を起こして反転させ伏見さんを押し倒して、にっこりと笑って伏見さんの首筋に噛み付く。びく、と身体を震わせるのが可愛らしい。

「明日早番なんでさっさと終わらせますね」
「お前…雰囲気無さ過ぎ」
「そんなの求めてないです。あなたもそうでしょう」

にっ、と笑えばまあな、と今日初めて少しだけ笑い返した。ああこんなにも愛しい。それ以上はもう、いらない








サガノさんからのキリリクでおまかせということだったので五伏を書かせていただいました!両思いなのにすれ違った感じで伏見は誰かに思いが揺らいでる感じです。でも数日後五島と結ばれます。という願望。キリリク有難うございました!


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